さて夏休み。バベル(偽)のブームも去り、我々はマジックの対戦に勤しんでいた。
ブースターを買っている友人たちと比べ、スターターのままで戦っている私は、当然全体的なカードパワーの面で溝をあけられていた。しかし、勝率は悪くなく、それはひとえに『奈落の王』の力であった。飛行、トランプルなので突破力は高く、黒なので除去も効きづらい。序盤、中盤を何とか耐えて王様に繋げることで勝利していた。
しかし、やはり他のカードのクオリティで劣るので、『大気の精霊』や『堕天使』といった優秀な飛行クリーチャーが中盤に飛び出して来たら、そのままボコボコにされることもあった。なにも出来ず立ちすくむ『ホマリッドの戦士』や『闇に住まいしもの』を憎らしげに見つめたこともあっただろう。
そんなこんなで相変わらず5色であり、力こそ全て、であったがそれなりにマッジクライフを楽しんでいた。
そのうち『奈落の王』のワンマンチームに限界を感じて、何か良い手はないかとデッキを見直していたら、ある赤いカードが目に留まった。
『分解』
代数を習ったばかりの中1だが、何とか意味は理解できた。
そして気付くのである。
(20マナ払ってプレイヤーに打てば即死やん!!)
荒唐無稽に聞こえるかもしれないが、皆まだ洗練されていない5色デッキを使っていたので、長期戦になりがちな場には、それこそ20枚くらい土地が並ぶこともあった。終盤なら一撃でライフを失わせるくらいのとんでもない量のマナが出たのだ。
当然ながら、クリーチャー同士がお見合いする我々の対戦では、この『分解』は異常な強さを発揮し、次々に対戦相手を灰にしていった。そして、それが波及し、皆が『火の玉』や『ハリケーン』などに莫大なマナを注ぎ込む一大ブームが起きた。
T君は「X火力」を持っていなかったが、代わりに『呪文破』を持っており、私の20点の『分解』を20マナ払って打ち消したりした。熱過ぎるプレイだ。
これだと先に「X火力」を打った方が勝ちとなってしまうので、今度は皆如何に身を守るか考えだした。出した結論がこちら。
『防御円』
たった1マナで守れるのだ。今度のトレンドは防御円となり、N君やB君のデッキにはほぼ5種類の防御円が常備され、「X火力」に対して絶大な防御力を誇った。さらに『黒の防御円』でも張られようものなら『奈落の王』も只の共食い要員となってしまう。
この防御円ブームに際して、今度は「エンチャント破壊」が嗜みとなった。『解呪』や『平穏』を入れておかないと太刀打ち出来ない状態に陥るからだ。
こんな感じで、「強大なクリーチャー」→「火力」→「エンチャント」→「エンチャント対策」というように、なんだかんだでマジックに必要な経験値を蓄えていったのである。
ルールはめちゃめちゃ、ゲームはグダグダでも、このように毎回が発見であり、何故かまたプレイしたくなる魅力に溢れているゲームであった。
時はまだ中1の夏休み、デッキが洗練されるのはもう少し後の話。