トレーディングカードというだけあり、物々交換で欲しいカードを手に入れることは醍醐味である。
まだレアカードの概念はなく、各々欲しいカードを好きに交換していた。価値や強さを知らない頃、誰でも一度は「やっちまった」経験があることだろう。
私の最初のトレードはこんな具合である。
「飛行」が強いことを知った私は、どうしても空軍の充実を計りたかった。『メサ・ファルコン』『炎のドレイク』『蒼穹のドレイク』『奈落の王』くらいしかおらず、他の人より頭数が足りなかった。
そこで目をつけたのがB君の『真紅のマンティコア』である。
このカードを得るためにmoryが提示したのはコレ。
『精神錯乱スラル』である。
・・・
能力まで言えたらマジックマニア確定級の、超絶「ド」コモンだ。
渋るB君(当然だが)に、やれ3マナで同じP/Tだの、1マナ軽いだの、強力なカードを捨てさせれるだの、訪問販売並のプレゼンを行い、なんと交換は成立した。B君の精神は錯乱したのだろう。
ちなみに真紅のマンティコアがレアであることは半年後くらいに最も望ましくない形で判明する(これについては別の章で)。
ガッカリレアではあるが、トレードしたスラルは問答無用のガッカリコモンなので、やや得をしたと言える。B君すまん。
まあ、こんなのは可愛いもので、もっと愉快な交換もあった。
当時のレアカードは「分かりにくい強さ」であった。『ハルマゲドン』や『十字軍』、『神の怒り』など、お互いに影響を及ぼすものに、我々は上手く反応出来なかった。要は『十字軍』よりは『神性変異』、『神の怒り』よりは『恐怖』のほうが強いと感じていた。『ハルマゲドン』なんて意味不明であった。
言うまでもないが、これらは当時のトップレアで価格4桁は下回らない逸品である。
第1版で書いたが、実は私は『ハルマゲドン』を持っていた。そして土地を全て壊すという行為が理解不能でデッキから抜かれていた。自分の土地も壊したらXに沢山マナ注げんやん、と。そういう訳であまりケースから出てくることはなかった。
ある時、W君の持っていたあるカードに一目惚れした。
『黒騎士』
当時の黒を象徴する超優秀クリーチャーで、2マナ2/2、先制攻撃、プロテクション白。トーナメントシーンでも数々の栄光を持つカードだ。
しかし惹かれたのはそんなところではない。
絵だ。
このカッコいいカードをデッキに入れたくてしょうがなくなったのだ。勿論強いカードだとも思ったが、甲鱗様ほどではないと思っていた。
必死の交渉。
恐らく一体一では申し訳ないだろうと思い、数枚出すことにした。「血に飢えた霧」と「信仰の鎧」を出した。さらに、W君が「生命吸収」を持っていたことに目をつけて、「漆黒の手の信徒」でコンボになる、とこれも差し出した。
優しいW君はいいよと言ってくれた。
でも何だか悪い気がして、せめてもう少し報いたい(当然だが)と思った私は、
「これもオマケであげるよ」
かくして私のスターターにひっそりに眠っていた2000円のオマケは、無事W君のもとに引き取られていった。お互いに価値に気づくのはもう少し後になる。W君のスターターからは『ネビニラルの円盤』も出ていたのでかなりいいレアを持っていたと言えよう。もちろん例にもれず、円盤の強さも誰も気づいてはいなかったが。
しかしその横ではさらにとんでもないトレードがおきてきた。
この「ツンドラ狼」が欲しかったM君がT君に提示したカードはコレである。
T君が「十字軍」をプレイしたってM君の「ツンドラ狼」も強くなるから問題ないね!
・・・
問題大アリである。
先述の通り、これぞ当時の白ウィニーを支えた必須レアカード。数千円するこれを4枚集めるのは大変であった。
白ウィニーはどの時代も人気があり、トッププレイヤーをして、
「核戦争があってもゴキブリと白ウィニーだけは生き残る」
とまで言わしめていた。
さすが「十字軍」を派遣するだけあって、M君は慈善事業が得意なようだ。
とまあこんな感じで始めたころに有りがちな「フィーバー」状態はしばらく続いた。ある意味本当に欲しいカードを得ていたわけで、目先の値段に縛られない良い時間だったのかもしれない。真の価値は自分だけが知っていたのだ。
余談だが、後にM君にこの交換について聞いてみたところ、
M「一片の悔いもない」
熱すぎる漢である。