「メトロポリタン美術館って知ってる?」
知らない。彼は呆れ顔で続けた。
「ニューヨークだよ。そこは常に新しい芸術が生まれているのさ」
ニューヨークなら知ってる。海の向こうの大陸にある都市だ。
「私はそこに行く。この国では真の芸術は認めてもらえない」
お金はどうするのかな?
いつもは食い扶持にも困ってたみたいだけど。
「これをごらん」
キャンバスバッグの中の絵は不思議な魅力があった。
どこか懐かしいような。既視感、っていうのかな。
「この絵をある美術館が4000万以上で買ってくれることになった」
なぜだろう、
とてもすごいことなのに彼の表情には影もあった。
なぜだろう、
この絵が買われるなら認められているということではないのか。
「今日でこのアトリエもおしまい、君ともさよならだ。
私は新天地で真の芸術を造るのさ。
君が大人になるころには、世界で名を轟かせているかもよ」
このときなら引き返せたのかな。
十年後、
彼は世界で最も有名な贋作家として名を轟かせることになった。
上手く描かなくていい愉快なお絵描きゲーム。
普通テレストレーションやPixのように、イラスト系ゲームは上手い程有利である。
しかし、このゲームで必要なのは、画力ではない。度胸と洞察力と話術である。
ではルール。
親はお題を決めて人数分のプレートに書く。
それを配られた残りの人はお題を確認し、順番に一筆ずつ回して描いていく。
それを2周してお題の絵が出来上がり。
え、どこがゲーム?
慌てない慌てない。
実はルールをひとつ抜いて書いた。
以下を付け足して貰おう。
『親はプレートにお題を書くとき、1枚だけ書かない』
そう、実はこの連帯作品は、一人だけ知ったかぶりで描いている人がいるのだ。
お題を知っている人は、この『エセ芸術家』を当てれば勝ち。
『エセ芸術家』を当てられない、または見破られてもお題を当てれば、親と『エセ芸術家』の勝ちだ。
見当すらつかない絵を描くのは無理なので、親は最初に「ジャンル」は宣言することにはなっている。
このゲームの妙は、やはりエセ芸術家に
「お題を当てられても駄目」というところだ。
当然だが、上手く描くなんてナンセンス。
エセにお題がバレたらそもそも見破れない。さらにはエセの正体が分かっても、わかりやすい絵だとお題を当てられてしまう。
実に良く出来ている。
芸術家サイドに必要なのは発想力。お題を知る人なら感じれる
絶妙な一線を描くのだ。これに反応出来なかった人はエセだろう。
しかし、難し過ぎると周りも反応出来ず、逆にエセ扱いされてしまうので注意。
エセは度胸と洞察力。会話ですらヒントなので耳を傾ける。そして、チマチマした在り来たりのもの(例えば、ジャンル:動物、での鼻や目)ばかり描いていると怪しまれるので、時には大胆な一線を描くべき。周りの人が深読みしてくれればもう安心だ。
自分だけお題を知らない時の焦りや、予期せぬ線が描かれたときの皆の混乱も面白いし、何より出来上がった連帯作品は間違いなく下手くそだ。
誰でもワイワイ笑えるお絵描きゲームの秀作である。
作品は残るので見返すのも楽しい。
傑作出たらプレイ記で紹介。