パンデミック

photo credit: hukuzatuna via photopin cc

「乳搾りの女は天然痘に罹らない」

18世紀の農民の伝承です。

 

実は乳搾りの女性が罹患することのある『牛痘』は、天然痘と同じポックスウイルスであり、近似性から免疫を獲得できるのです。

エドワード・ジェンナー(Edward Jenner)はこれを利用して、

種痘法を確立します。

 

しかし「免疫学の父」と呼ばれることになる彼は、

種痘法に特許をかけませんでした。

特許をかければ接種費用は高価になったでしょう。

そうしたら大勢の人にワクチンが行き渡ったでしょうか。

 

 

1980年に世界で初めて撲滅された感染症。

それは天然痘なのです。


” Do not think,but try: be patient be accurate”

「近代外科の祖」~John Hunter~ 

ジェンナーの師

 

Rule&Analysis

 

 

 協力型ゲームでは最も有名なひとつであろう金字塔。数々の受賞歴があり、2009年のドイツゲーム大賞「Spiel des Jahres」にもノミネートされた。

 

 ちなみにその年の大賞は

 『ドミニオン』

 相手が悪かった


 ゲームの目的は、世界に広がりつつある4種の病原体の『治療薬』を開発すること。制限時間内に治療薬が作れなかったり、タイトルにもなっているパンデミック(世界的大流行)になってしまえば、プレイヤーたちの、いや人類の敗北である。

 

 新興感染症や耐性菌が話題に上る昨今、なんとも使命感を帯びるテーマである。「エイリアンから地球を守る」ってよりも現実味があるので、人類代表として『負けれらない戦い』がここにあると言えよう。

ゲームの流れは、

  1. アクションの実行

  2. 2枚の手札(プレイヤーカード)補充

  3. 感染処理

 

アクションは、各地への移動だったり、治療薬の作成等が含まれる。詳しくは後述。

アクションを終えて、手札を補充するとこんなカードが手に入る。

病原体と同じ4色。

このカードを同色5枚持った人が、調査基地のある都市において、ゲームに勝利するための「治療薬の開発」を行うことができる。

このカードは多機能で、アクションの「飛行機での遠距離移動」や「調査基地の設立」にも使用する。

 

そしてこれら山札のカードを捲っていく過程において、このカードが出るときがある。

エピデミック(Epidemic

 感染症や伝染病がある地域に予想を超えて急速に広がっていくこと


これが出たら「感染処理」。

実は、この感染処理過程は『地域流行』という状態を見事に表現しており、個人的評価がかなり高いポイントである。

どういうシステムかというと、

 

  1. まずは山札(感染カード)の下からカードを1枚引く。そこに病原体コマ3個置く。

  2. 捨て札を全てシャッフルし山札の上に置く。

  3. 山札の上から24枚のカードを引き、それぞれの都市に病原体コマ1個置く。

 

これを踏まえたうえで、ゲームの敗北条件について説明しよう。

 

このゲームの都市には、同じ病原体コマは3個までしか置けない。

それを超えるとキャパオーバーになって『アウトブレイク』が発生する。

アウトブレイク(Outbreak

爆発的感染。エピデミックのさらに規模が大きくなった状態。


アウトブレイクを8回起こしてしまうと敗北。

さらにこれが起きたとき、周辺の都市に病原体をまき散らす。具体的には同色のコマをひとつ隣接する全ての都市に置くのだが、やはりこのとき3個をオーバーしてしまえば「アウトブレイク」になる。特定の地域で感染が連鎖していく恐怖を体現している。

アウトブレイク以外にも、ある病原体コマを使い切る(ボード上に置く)ことでも敗北になるので、感染の拡大は妨げたいところだ。

 

さて、前述の感染処理システムの妙、お分かり頂けただろうか?

 

捨て札を山札の上に置き、再度数枚引くということは、また同じカードが出る、すなわち同じ地域に病原体が置かれやすいということである。運が悪ければ、最初に山札の下から引いてきた都市が、一瞬にして「アウトブレイク」する。繰り返す、そして根治の難しい感染症の性質を巧みに表現している。


 マップも考えられており、移動・流通の中心だったり、地域的に密な大陸部では、感染の拡大範囲(隣接都市)が多くなっている。パリやイスタンブール、香港などだ。逆に日本は島国なので周辺国からの影響は少なめ

 

 エピデミックカードの枚数がゲームの難易度に直結するが、個人的には6枚(hard mode)くらいがシビれて丁度良いと思う。別売の拡張セットがあれば7枚(maniac mode)まで可能。また最初の感染発生地も重要で、スタート地点の「アトランタ」に近い北米やヨーロッパならば比較的容易、離れているアフリカや西アジアでは難易度はあがる。

 

 世界を感染症から救うため、プレイヤーは情報交換(カードの交換)や都市の感染者の治療を行いながら、最終的には4種の病原体すべての治療薬を作るのだ。

 プレイヤーには役職が与えられ、





治療薬を作成しやすい

「科学者」






情報交換しやすい

「研究員」

 

 

 

 

感染者の治療に特化した

「衛生兵」




調査基地を建てやすい

「作戦エキスパート」





他のプレイヤーを追加で行動させる

「通信指令員」

となる。

 自分が得意な分野で活躍できるということも、自尊心を高め協力型ゲームを楽しくしてくれる要素であろう。逆に、ゲームに慣れた人が、アレコレ指示を出しすぎるのは望ましくない。やらされている感が出てしまうとその人は楽しめないだろう。熟練者はその点注意。是非とも、皆で相談しあって世界を救ってほしい。


ちなみにモデルとなっている感染症は、その菌型から、


青:炭疽菌

黄:チフス

黒:エボラ

橙:天然痘


根絶されているのは天然痘のみ。エボラに至っては2014年現在、世界を震撼させており、有効な治療薬もない。時事問題なので紹介したわけではないが、一刻も早い感染の収束が望まれる。