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「・・・これで3人・・・か」
「いや、4人だ、ジョージ」
「アバーライン警部!」
「キャサリン・エドウズ。マイタースクエアで見つかった。
やはり娼婦だ。」
「・・・無くなっていたものは?」
「左の腎臓と子宮」
「・・・奴ですね」
「今朝こんな手紙も届いた。我々は完全に舐められている
な。犯行の詳細、投函のタイミング等からして、おそらく
本人によるものだ」
「・・・『今回は二本立て(double event)』だと!ふざけた
真似を!」
「まったく、あの小説の名探偵の力でも借りたいね、作者は
コナン・ドイルだっけ?」
「・・次の犯行もありますかね?このホワイトチャペルで」
「あるさ、恐らく次が最後だ」
「なぜですか?」
「勘だよ、ただの・・・だが次は逃がしはしないさ、
この首をかけよう、ジャック・ザ・リッパー」
『スコットランドヤード』に代表される鬼ごっこ系ゲーム。これは19世紀のロンドンで起きた「切り裂きジャック」の事件をテーマとしている。
プレイヤーの一人は「ジャック」役、残りが捜査員役となる。ジャックの目的は街のどこかで殺人事件を起こした後、ゲーム開始時に定めたアジトに逃げ帰ること。一方、捜査員の目的は勿論ジャックの逮捕である。ジャックがアジトに入ればそのラウンドは終了。最初の犯行とされる1888年8月31日を第1夜、そして最後の犯行とされる1888年11月9日が第4夜となり、計4回のラウンドが行われる。全てのラウンドでアジトまで逃げ切ることができればジャック側の勝利となる。
ジャックと捜査員は交互に手番を行う。
ジャックはボード上の数字が書かれたマスのどこかにいる。とある場所で殺人を犯すと、その地点に血痕を示す赤いトークンが残る。開始時はそこにいることになるのだが、実はジャックはボード上の可視対象ではない。ただジャック役の人が、手元のボードに移動した地点の番号を書いていくのだ。しかし、このとき移動手段についても公開しなければいけない。移動手段は三種類、①通常移動(1マス動く)、②馬車(2マス動く)、③路地裏(区画に接する好きな場所に移動)がある。②③は回数制限がある。例えば「70」のマスにいて次の移動を①で選択した場合は、「69」「71」「87」「103」のいずれかに行くことが出来る。1マス動いているだけでは容易に詰め寄られてしまうので、ジャックが捜査網を撒くには馬車や路地裏移動がキーになる。
一方、捜査員は■のマスにいる。一度に2マス先まで移動可だ。そして周辺の数字マスに対して、①手がかり捜索、②逮捕、を行うことが出来る。もし手ががり捜索で、ジャックがそのラウンド中に「一度でも居たマス」を挙げられたなら、ジャックは正直に「居た」ことを宣言しなければならない。目印に透明なトークンを置いておくことができ、ジャックの公開情報「移動手段」と照らし合わせて現在位置を特定していく。そして②の逮捕の宣言でひとつマスを指定し、そこにジャックがいればゲーム終了となる。
史実ではジャックは捕まっていないが、このゲームにおいてはジャックが4夜全てを逃げ切るのは難しい。理由は第3夜と第4夜。第3夜は特別で「二本立て」、つまり2か所で殺人を犯し、どちらかから選んでスタートするのだが、この夜の先手は捜査員なのだ(普段はジャックから)。一手早い現場急行は厳しく、この夜には捜査員側に大きな情報を与えてしまう可能性が高い。さらに次の第4夜では、それまでの調査から大体のアジトの目星を付けられているうえ、馬車と路地裏が1回ずつしか使えない。この状態でアジト周辺に殺到する捜査員をかわさなければいけないのだ。
ジャックは如何に居場所がばれないように、そしてアジトがばれないように逃げるか、がポイント。迫られると胸中穏やかではない。最初に定めるアジトの位置と、犯行を起こす場所の選択は良く考えるべきである。
捜査員はまず「足跡」を見つけること、そして移動手段を確認しながら移動経路や現在地を想定していくことが基本戦略。ジャックがとった移動方法をボード上に記録として残すシステムは、論理的に捜査をするための素晴らしいシステムである。このため捜査員たちの『捜査会議』は非常に楽しい。しかし、蚊帳の外のジャック役も退屈はしない。当たっている推理には内心ドキドキしたり、捜査をミスディレクションするための作戦を考えたりと、決してヒマな時間にはならないからだ。
テーマとゲームがぴったりであり、ジャック側でも捜査員側でも楽しめる内容。なにより実在した捜査員や資料、そしてホワイトチャペル地区を再現したコンポーネントの雰囲気は最高の一言。好きなコンポーネントのボードゲームTop3に余裕のランクイン。
これは史実を知るとより深く楽しめると思う。
コラム<Jack the Ripper~Letter from hell~>にて。