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回遊、そして産まれた浜へ。
ここで産むことにした。
夜浜は適温。
浜の状態もあの時のまま。
変わったのは、海。
仲間は随分減った。
100個ほどの産卵を終え、
そして、体内の塩分濃度調整のため、
彼女は塩類腺から塩水を排出した。
この子達のうち幾ばくが、
またここに戻って来れるだろうか。
これは「涙」では無い。
ただ、
悲しい時に必ず「涙」が出るわけでも無い。
作者はアレックス・ランドルフ。
ボードゲーム黎明期を支えた偉人である。
日本フリークとしても有名。
黎明期と言うだけあり、このゲームの初版は1974年。
『カンガルー』というタイトルであった。
その後テーマを変えながら再販され、『勲章』や『料理』などの様々な変遷を経て、『ウミガメ』という本作に至る。
ゲームは「サイコロチキンレース」。
プレイヤーはカメを産卵させることが目的。
産卵ポイントはスタートのイカダから21マス地点。島は円形になっており、21マス目を超えたら1マス目に戻って周回する仕様。
産卵数=ポイントであり、これは山札として置かれている。誰かが21マス目を通過したら、また新たにめくられる。1~6点まである。山札が尽きたら7点の文字が現れ、これを誰かが獲得したら終了だ。
進むのは当然サイコロに拠るのだが、サイコロは何故か3個ある。
ここがポイント。
1個振って気に入らなければ、2個目、3個目と振ってもいい。
しかも、2回振った時は合計値の2倍、3個振った時は合計値の3倍
進んでも良い。
毎度のことながら、これではゲームにならないので注意点あり。
合計値が8を超えた時点でバースト。カメはスタート地点のイカダに戻るのだ。
さて、ここでちょっと本作のキーワード。
「8以上でバースト」と「21マス」
これぞこのゲームの妙。数学的な美しさ。
具体的に説明しよう。
まずは8以上のバースト制。
2個振った時の成功率は58%、進めるマスの期待値は10。
3個振った時の成功率は16%、進めるマスの期待値は18。
見てわかる通り、2個と3個で劇的に確率が異なる。
3個でバーストしないのはかなり難しい。
2個のときだって5回に2回は失敗するのだから、そんなに割の良い賭けではないだろう。
しかし、成功したときのベネフィットは大きい。
期待値を記載したが、これはあくまで目安。
実際、2個の際に成功したら、高確率で14マス進める。合計値が2になるよりも7になるパターンの方が多いからである。
(正確には成功したときの37%になる)
では3個のときは?
そう、21が一番出るのである。
これが「21マス」の素晴らしさ。成功自体が狭き門だが、もし成功したときは43%の確率で「21」に到達出来るのである。
それは、スタート地点のイカダにいても、だ。
このバランスが実に見事。
容易くはないが、いつでも誰でもチャンスがあり、絶対的リードが無い。6点のときなんかは逆転狙って盛り上がるだろう。
こんな簡単な数学で、このゲームが劇的に面白くなっているのだから脱帽である。この数字に「特許取っとけばいい」とすら思う。
さらにもう一つ。
どこかで見た?これだろう → 『キャメルアップ』
レースゲームを盛り上げる「上に乗るシステム」。
おそらくこのゲームが元祖である。
『キャメルアップ』と同様に下が動くときは一緒に移動可。
21マスを通過したときの優先権も上にある。
ちょっと異なるのは、2回目を振るかどうか決めるのが「上のカメ」である点。下の労働層のカメは上の貴族層のカメの言うことを聞くしかない。無理やり振らされて、大きい数になって、あまつさえ
21マスを越えさせられようものなら、
このように産卵のためではない涙を流すことになる。
再販を繰り返されているだけあり、簡単で面白いゲームの決定版。
初めての人に紹介するボドゲとしてもいいかもしれない。
写真出典 ウミガメの産卵の涙:雑学大全